聖家族とは、ルネサンス期にミケランジェロ・ブオナローティにより制作された絵画で、イタリアはフィレンツェのウフィツィ美術館に収蔵されている作品です。
ミケランジェロの聖家族
(聖家族と幼児洗礼者ヨハネ[トント・ドーニ])
モチーフとして描かれている聖家族とは幼児キリストとその養父である聖ヨセフと母親の聖母マリアの三者を指しており、この三者は絵画の中央前景に描かれています。
キリスト教の絵画においてはキリストと聖母マリアの二者をモチーフにした作品が非常に多く、聖ヨセフについては描かれたとしてもこの二者とは扱いが大きく異なり、絵画の隅の方に描かれるケースが多くありました。
これはキリスト教においてキリストが処女受胎で生誕し聖ヨセフは養父であり、神の子イエスを強調したいと側面があったものと考えられます。
しかしこの作品が制作された時代になると経済が豊かになる中で家庭においても父親の存在が大きくなリつつあるため、こうした世相が三者を中央に同列として描くスタイルに反映されたものと考えられています。
この絵画の特徴としては、寸法が91cm×80cmで円形をしていることと、油彩とテンペラで描かれた板絵(パネル絵)ということが挙げられます。
絵画と言えば、キャンバスに描かれた絵を思い浮かべる方も多いですが、キャンバスは亜麻(アマ)の繊維から作られた布地で、油絵具やアクリル絵具などを用いて描く方法です。
対して、板絵(パネル画)の場合では、木製の板状のパネルに直接描く方法をとり、これはキャンバスが普及する16世紀半ば以前に多く見られました。
ミケランジェロは一般的に彫刻作品が広く知られていますが、システィーナ礼拝堂天井画を始めとする絵画についても多くを手掛けています。
聖家族の制作技法についてはシスティーナ礼拝堂天井画と同様に明るい色の並置で表現されており、弟子などを使わず当人だけで仕上げたと伝えられています。
この作品についてはミケランジェロが制作して現存するわずか3枚の中で唯一完成している板絵(パネル画)であり、額装についても当時のまま残されている非常に希少性が高い作品です。
作品の内容についてですが、前述のように幼児キリストと聖ヨセフと聖母マリアの三者が前面に描かれているのですが、そのやや後方の段差がある場所に洗礼者ヨハネが描かれ、さらにそのはるか後方には5人の裸体の男女が描かれています。
こうした構成については、時間の流れを表わしたものと考えられており、まず後方の裸体の五人は律法が無い異教の時代を指しています。
さらに中間の洗礼者ヨハネは旧約聖書の時代を表わし、さらにイエスなど前面の三者はこれから救済が始まる新約聖書の時代が表わしているとした説もあります。